2008/09/14

ミステリとパズル


ソシオメディア株式会社主催のDESIGN IT!フォーラム(副題:インタラクションデザインの現在と未来 )に参加する機会があった.

adaptive path社のインタラクションデザイナーであるダン・サファー氏が講演者として招かれ,いくつかの興味深い講演を行った.

その講演の中で述べたことに次のような一説がある.
「良いデザインプロセスと悪いデザインプロセスの違いを理解するために,ミステリとパズルというメタファーを用いることができる.パズルには解法が一つしかない.パズルが解けないのは,パズルのピースが足りないと考える. ミステリは解法が複数ある.ミステリが解けないのは,情報が整理されていない状態であると考える.デザインはミステリを解くかのように行わなくてはならない」
この一説がどこかからの引用なのか,それともダン・サファー氏の自説なのかは定かではないが,とても記憶に残る言い回しだった.

ダン・サファー氏は難解なミステリを解くことに成功した一つの例として,最も有名なアプリケーションの一つである「Microsoft Word」を取り上げていた.

1989年に出荷した「Word 1.0」では,コマンド数は100個,ツールバーの数は2本というシンプルなものであったが,ユーザの要求によって機能追加が進み,Word 2003 ではコマンド数1500個,ツールバーの数31本という数にまで膨れ上がった.機能が追加されていっても,ユーザインターフェースがほとんど変更されなかったために,ユーザは利用したい機能に辿り着くまでにいくつものツールバーを表示させ,プルダウンから探さなければならない羽目になった.

当然のことながら次期バージョンのUIチームは,このまま機能追加を続けていけば更に事態を悪化させることに気づいていた.そのためUIチームは,ユーザインターフェースの大幅な見直しが必要であることを上層部に掛け合い,承認させた.

彼らUIチームの仕事が結実したものとして,従来のメニューを廃し,リボンインターフェースを採用したことが最も大きいものだろう.そのほかにも「ライブ・プレビュー機能」,「コンテキスト・タブ」などがある.クラシックモード(旧バージョンのユーザインターフェースに切り替えるモード)の切り捨ても戦略的な英断だった.

彼らがそのような過去を見直し,新しいユーザインターフェースを提供できたのは,アプリケーションのデザインをミステリを解くかのように扱ったということだろう.つまり,パズルの足りないピースを見つけ出すように,アプリケーションに足りない機能をただ付け足すのではなく,ユーザがどのようにアプリケーションを使うのか,というストーリーを洗い出し,その筋道をスムーズに通り抜けられるようデザインするということだ.

ペルソナ手法としてのデザインプロセスは,市場調査を行い,データからモニタのプロファイリングを行い,ターゲットを絞り込んで,仮説を立ててその行動を詳細に予想し記述する.まるで何かミステリを解いているような気がしてこないだろうか?

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