2008/09/08

美的生活のすすめ


同志社大学京田辺キャンパスで行われた日本認知科学会の二日目は,「美的生活のすすめ」と題して,華道家の笹岡隆甫さんの講演が行われた.認知科学と華道がどう結びつくのだろうか,という疑問はあったが,そんな疑問は終わってみれば全く必要もなく,とても実りある講演であった.

華道ということについて自分は何一つ知らないし,家で花を生けるなんて粋な趣味は持ち合わせていない.しかし,講演を聴いているうちに,花を愛で,花で遊ぶという生活をとても「うらやましい」と感じた.

華道にもいくつかテクニックがあって,それを笹岡さんは実演を交えて説明してくれた.まず花はアシンメトリー(非対称)に生けること.花で三角形をつくると,空間に広がりができてよいようだ.まるで絵画における構図の理論のようでもあるが,絵画と違って,生けている場所の空間と時間を包み込むような,そのような自由度(あるいは制約)が華道にはあるようだ.

「花は蕾み勝ちに生けよ」という教えも笹岡さんが教えてくれた.咲ききった花を生けず,蕾を生けることで,生け花に「時間」を含ませているという考えからであった.花を愛でるその刹那の中に永遠(小宇宙)を見せるのが,生け花の本質であるようだ.

「ブーケは花を足し算して絨毯を作るけれども,生け花は引き算して空間(時間)を作る」ということもおっしゃられていた.そのように語ることの底には,観る側への無根拠な信頼が横たわっているのだろう.ヒトには美しく生きることへの欲求があり,想像力を働かせることができる.そう信じることができることが,自分にとっては「うらやましい」という嫉妬の感情を呼び起こすのだろう.

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